ある男の幸せ追及と子育て日記

元役者で転職15回、結婚4回、50歳を過ぎて初子育てと、何かと波乱万丈な人生を歩んでいます。子育てや所感を中心に人生の幸せを追求していきます!

ある専門店でのアルバイトの話

 この話は約28年ほど前の話で、当時私が24才頃のお話です。

 

 ちょうどその時期は、役者で所属していた事務所の時代劇ばかりの仕事に嫌気が差している時期で(仕事があるだけありがたいのに、若いとすぐに調子に乗ってしまうんですね、、)、色々なアルバイトをして食いつないでいる時期でもありました。

 

 前回お話した便利屋での仕事も、バブル崩壊とともに仕事量が少なくなってきて、私のようにやりたい事があるスタッフよりも、便利屋専門で働いてくれているスタッフに少ない仕事を回している時期でもあり、私も93年頃から自然と便利屋から距離を置くようになっていました。

 

 私は映画鑑賞が好きで、求人誌をめくりながら何か自分にいい仕事がないか探していたのですが、ちょうどその時私の目に飛び込んだバイトがレンタルビデオ店のアルバイトでした。

 

 これはもしかしたらタダでビデオを観ることが出来るかもしれないと、動機は不純だったのですが早速応募の電話をしました。

 

 私が住んでいる町から電車で乗り継ぎなしの15分ほどで行ける距離でしたし、私の好きな古本屋が立ち並ぶ土地だったため、帰りがけに見に行ける機会も作りやすいなと、立地が良い点もそこに応募した理由のひとつでした。

 

 面接に行くと店長さんと思われる方と、本社の社員と思われる方の二人が待っており、早速面接をしてもらいました。

 

 やはりそこまで深い知識が必要ではないバイトなので、シフトに入れる日数や希望勤務時間等を中心に聞かれ、面接が進みます。

 

 意外と応募者も多く、面接から1週間程度で連絡を差し上げますと言われ面接会場を後にしました。

 

 それから5日後くらいの事です。

 

 当時は携帯電話など持っていない時代で、家に引いている電話に電話がかかってきます。

 

 担当者「先日はありがとうございました。それで結果なんですが非常に申し上げにくいのですが、、、」と何か話しにくそうな雰囲気です。

 

 少し間が空き

 

 担当者「実は当社に同じ系列店がありまして、今回そちらなら働いていただく事が可能なんですが、、、」と言い出します。

 

 私「え?それはありがたいんですが、系列店って何か違うんですか?」と質問します。

 

 担当者「そ、それがアダルトだけを取り扱った専門店なんです」

 

 私「はぁー。アダルトですか」

 

 担当者「そこは自社管理の3階建のビルで、1階はグッズ、2階は本や雑誌、3階がビデオレンタルとなっております。今回はそのビデオコーナーなんですがいかがですか?」

 

 私「そうなんですね、、、」としか私も言えません。

 

 担当者「それでは明後日くらいまでならお返事をお待ちできますので、それまでにご検討いただいてもよろしいですか?」

 

 私「分かりました。それでは少し考えてみます」と言いその日は電話を切りました。

 

 当時私は一番初めの妻と付き合っている時期で、何か好き好んでそこに行ったと思われるのも嫌だったので、その話の経緯を彼女にしてみます。

 

 そうすると彼女から意外な返事が返ってきます。

 

 彼女「まぁ分かんないけど、何かおもしろいんじゃない?」

 

 私「うーん。面白いのかねぇ」

 

 彼女「だったらまずはそこで仕事をして、普通のレンタルビデオ店に空きが出たらそちらに行ってもいいですか?って言ってみてもいいんじゃない?」と言います。

 

 それを聞いた私も「確かにそうだね」と答え、後日連絡がありその条件も承諾してもらえたので「ではよろしくお願いします」と先方に伝えました。

 

 その電話から5日ほどして初出勤を迎えます。

 

 私「今日からアルバイトでお世話になります○○と申します。よろしくお願いします」と他のスタッフさんに挨拶をします。

 

 店長「それでは○○君、早速だけど2階にあるエ〇本コーナーのレジを覚えてもらおうと思っているのでよろしく!」と言い出します。

 

 私「え?レンタルではないんですか?」

 

 店長「レンタルはお客さんもかなり多いし、各ジャンルごとのメーカー名をある程度知り尽くしていないと仕事がこなせないから、まずはゆっくり仕事の感覚を覚えることが出来るエ〇本コーナーや、1階のアダルトグッズのレジを任せようかと思っているよ」と言ってきます。

 

 それから私は2階の事務所に向かいます。

 

 するとおや?っと思います。

事務所側から店内が全く見渡せないのです。

 

 レジには今でこそウイルス対策で透明のアクリル板のつい立がカウンターにい置いていますが、そこには相手がまったく見えない濃いグレーのつい立が置いてあり、お金のやり取りをする空間しか空いていません。

 

 海外の映画で良く見る、銀行の窓口の鉄格子がアクリル板になったイメージですね。

 

 私「これって?」

 

 そこにいた他の先輩スタッフが空気を察したのか私を見て言います「だってお客も恥ずかしいでしょ。それにあからさまにこっちが見ている状況なら、買いづらいから商売が成り立たないよ」と。

 

 「なるほど」(心で思います)。

 

 それからレジ周りの事をしばらく先輩に教わります。

 

 その後、レジのある場所に立ちひたすらお客様を待ちます。

 

 当時はまだまだ職場環境がゆるく、その先輩は何とお客様から見えないことをいいことに、タバコを吸いながら作業しています。

 

 先輩も私のその視線で察したのか、次のように言います。

 

 先輩「ここの職場は喫煙OKだから、〇〇君も吸いたかったらいつでも吸っていいからね!」

 

 私「あぁそうですか。ありがとうございます」とひとまず答えます。

 

 そしてついに初めてのお客様がレジに来ます。

来たといえど見えないので、商品を持った手がアクリル板の下から出てきます。

 

 私「いらっしゃいませ!ありがとうございます!それではこちら2点で〇〇円でございます」

 

 お客様に袋詰めした商品とお釣りを渡したところで私は「ありがとうございました!」と言います。

 

 すると先輩からそこで意外な言葉を言われます。

 

 「〇〇君。いらっしゃいませとかありがとうございますとか一切言わなくていいから」

 

 私「え?そうなんですか?」

 

 先輩「だってここのお客は気まずい雰囲気で買い物してたり、隠れて買い物している人が多いんだよ。現に建物の窓も外から全く見えないでしょ。これも人目を気にせず買い物が出来るというひとつのサービスなんだよ。だから必要以上に明るく声かけなんかしたら、次回から別な店に行っちゃう可能性もあるし、〇〇円ですだけ言ってお金をもらって、お釣り返す時もそのお釣りの金額だけ言えばいいからね」

 

 私「そうなんですね。分かりました」と言い、その後の対応は先輩の言う通りにしていました。

 

 接客業は接客業なのに、こんなやり方の世界もあるんだなとその時は思いました。

確かにその雑誌や本の金額だけ言って、いらっしゃいませとかありがとうございましたとか一切言わなくてもクレームになった事はありませんでした(接客業でお客様に挨拶を一切しなかったのは後にも先にもここだけです)。

 

 2階の売り場で2週間ほど働いた私は、今度は1階のアダルトグッズコーナーに行かされます。

そこも2階と同じでノー接客でしたが、2階にいた時よりもかなり忙しく、金銭の授受と袋詰めを毎日淡々とこなしていました。

 

 1ヶ月ほど経ち、「これって楽しい仕事か?」という疑問を抱き始めた頃、店長に呼ばれます。

 

 店長「そろそろ仕事場にも慣れてきただろうし、今度は3階のレンタルビデオで働いてもらおうかなと思うけど、どう?」と言われます。

 

 私「はい。最初はそう思って入りましたし大丈夫です。宜しくお願いします」と答えます。

 

 そして、そのレンタルコーナーに自身の仕事が変わった事で、欲望にまつわる仕事はこんなにも人を変えるのかと恐くなり、その結果この仕事を辞めてしまう事になるなんてその時点では夢にも思っていませんでした。

 

 少し長くなりましたので、また次回お話できればと思います。

 

 本日も長い文章にお付き合いいただきありがとうございました!